
訪日外国人によるアニメツーリズムの現状と課題を考えてみた
アニメ作品の舞台となった場所を実際に訪れる、いわゆる「聖地巡礼」。
今、この旅のかたちが「アニメツーリズム」として、世界中で注目を集めています。
作品に登場した風景や施設を自分の目で見て、物語の世界に触れる体験は、アニメファンにとって特別な思い出となります。
こうした動きが近年ますます広がり、多くの外国人旅行者が日本各地の聖地を訪れ、地域に活気をもたらしているのです。
一方で、アニメツーリズムの人気が高まるにつれ、受け入れ側には新たな課題も生まれています。
この記事では、アニメツーリズムの概要や外国人が日本のアニメに魅了される理由、経済にもたらす影響、そして現状の課題について、解説します。
アニメツーリズムって何?

アニメツーリズムとは、外国人が日本のアニメ作品に登場する場所や、それに関連する地域を訪れる旅行スタイルのことです。
近年、日本のアニメツーリズムは世界中で注目されており、2023年には訪日外国人の約7.5%(約187万人)が映画・アニメゆかりの地を訪問しました。
物語の舞台となった実在の街や、キャラクターたちが訪れたとされる場所を巡ることで、ファンたちは作品の世界により没入し、特別な思い出を作ることができます。
たとえば、岐阜県飛騨市や高山市は映画『君の名は。』の舞台として世界的に知られるようになり、多くの外国人観光客が訪れるようになりました。
また、埼玉県の川越市は『月がきれい』、東京都の秋葉原は『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』の聖地として人気を集めています。
さらに、アニメツーリズムは、ただ作品に関連する場所を訪れるだけではありません。
地元の文化に触れたり、地域のイベントに参加したりと、旅先での体験を通して日本の魅力をより深く味わうことも楽しみのひとつなのです。
こうした動きは、観光地にとっても新しい可能性を広げています。
これまで観光客が少なかった地方都市でも、アニメ作品との結びつきによって注目が集まり、地域活性化につながるケースが増えてきました。
アニメツーリズム協会は、アニメファンの関心を集めるため、『訪れてみたい日本のアニメ聖地88』を選定し、アニメツーリズムの促進に努めています。
アニメ文化を愛する人々と日本各地をつなぐアニメツーリズムは、今後ますますその存在感を高めていくでしょう。
外国人が日本のアニメにハマる理由

日本のアニメが、世界中の人々を魅了してやまないのはなぜなのでしょうか。
それにはいくつかの理由があります。
物語の深さと普遍的なテーマ
日本のアニメは、子ども向けにとどまらず、幅広い世代が楽しめる作品が多いことが特徴です。
家族愛や友情、自己成長といった普遍的なテーマが丁寧に描かれており、文化や国境を越えて共感を呼びます。
また、物語に奥行きがあり、キャラクターたちの心理描写が細やかに表現されている点も大きな魅力といえるでしょう。
単なる「善」と「悪」の対立だけではなく、登場人物一人ひとりの葛藤や成長が丁寧に描かれることで、観る人の心に強く響くのです。
独自の世界観
豊かな想像力にあふれた世界観も、外国人ファンを惹きつける理由のひとつです。
現実世界を舞台にしながらも、細部にまでこだわった描写や、美しい背景美術によって、物語の世界が鮮やかに映ります。
たとえば、『千と千尋の神隠し』に登場する街並みや、『進撃の巨人』の圧倒的なスケール感など、日本アニメ特有のビジュアル表現は、他国のアニメーションにはない独自性を持っています。
豊富なジャンルと魅力あふれるキャラクター
日本のアニメには、恋愛やファンタジー、SF、スポーツ、歴史ものなど、多彩なジャンルが存在します。
一人ひとりの興味や好みに応じた作品が見つかりやすく、多くの外国人が自分にぴったりの作品に出会うことができるのです。
さらに、キャラクターの個性も豊かで、誰もが感情移入できる存在が必ず見つかります。
多様な価値観を持つキャラクターたちの姿は、異なる文化圏に暮らす人々にとっても新鮮で、親しみやすさを感じさせてくれるでしょう。
サブカルチャーとしての魅力
日本のアニメは単なる映像作品にとどまらず、音楽やファッション、フィギュア、コスプレなど、さまざまなサブカルチャーと結びついて発展しています。
ファンたちは作品の世界をさまざまな形で楽しみながら、自分自身を表現する手段としてもアニメ文化に親しんでいます。
さらに、イベントやSNSを通じたファン同士の交流は、国や言語を超えて広がり、アニメを媒介にした新たなコミュニティを生み出しているのです。
訪日外国人のアニメツーリズムによる経済効果

アニメツーリズムは、日本各地に大きな経済効果をもたらしています。
また、近年では地域活性化の新たな切り札としても期待される存在になりつつあります。
ここではアニメツーリズムによる経済効果について解説します。
地域への直接的な消費拡大
訪日外国人によるアニメ聖地巡礼は、宿泊、飲食、交通費、関連グッズの購入など、さまざまな形で地域経済に貢献しています。
たとえば、映画『君の名は。』の舞台となった岐阜県飛騨市では、作品公開後に外国人観光客が急増し、観光収入が大幅に伸びたと報告されています。
また、舞台となった場所に設置されたフォトスポットや限定商品、スタンプラリーなどの取り組みも、観光客の消費意欲を高める要素となっています。
単なる「見学」だけで終わらない仕組みが、経済波及効果をより大きくしているのです。
地域ブランド力の向上
アニメ作品と深く結びついた地域は、国内外で「特別な場所」として認知されるようになります。
その土地にしかない魅力を伝えることができ、観光地としてのブランド力が自然と高まっていきます。
たとえば、埼玉県の秩父市はアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の聖地として知られ、作品ファン以外にも「自然豊かな美しい街」としてのイメージが定着しました。
このように、アニメを通じて地域独自の魅力が再発見され、観光資源の価値が高まる効果があるのです。
リピーター獲得の可能性
アニメツーリズムをきっかけに日本各地を訪れた外国人旅行者が、その後も日本をリピート訪問するケースは少なくありません。
アニメを通じて日本文化や地域の温かさに触れた旅行者は、別の作品の舞台を訪れたり、同じ地域を再訪したりする傾向が見られます。
このリピーター効果は、長期的に見た場合の観光施策において非常に重要です。
短期的なブームに終わることなく、持続可能な観光収入を生み出すためにも、アニメツーリズムが果たす役割は大きいといえるでしょう。
訪日外国人のアニメツーリズムが抱える課題

アニメツーリズムは、日本各地に活気をもたらす一方で、いくつかの課題も抱えています。
地域住民との摩擦が生じることがあり、特に外国人旅行者がマナーに不慣れな場合、私有地への無断立ち入りや騒音などが問題になることも。
そこで、受け入れ側がマナーやルールを周知する取り組みが求められます。
また、特定作品への依存による一過性のブームに留まるリスクも懸念されています。
地域そのものの魅力を伝える工夫を重ね、持続的な集客を目指すことが大切です。
さらに、外国人向けの案内や情報整備が不足している点も課題です。
多言語対応の充実や、ツアーガイドの育成など、外国人旅行者が安心して訪れられる環境づくりが求められています。
加えて、急激な観光客の増加による交通渋滞やごみ問題など、地域資源への過剰な負担にも注意が必要です。
地域と連携し、持続可能な観光の形を模索することが今後のアニメツーリズムの鍵となるでしょう。
まとめ
アニメツーリズムは、日本のアニメ文化をきっかけに多くの外国人旅行者を惹きつけ、地域に新たな活気をもたらしています。
聖地巡礼を通じて日本各地の魅力が再発見される一方で、マナー問題や情報不足、地域資源への負担といった課題も見えてきました。
これからは、作品だけに頼らず地域そのものの魅力を伝える工夫や、多言語対応の充実、持続可能な観光のあり方を意識することが大切です。
アニメを愛する気持ちとともに、日本各地の良さをより深く味わってもらえるような取り組みが、アニメツーリズムの未来を支えていくでしょう。