キャラクター創造論①~アバターを手掛かりに考える~
アニメやゲーム、コミック、小説などジャンルを問わず「キャラクター」は必ず存在します。
そして、「ストーリー」とともに「キャラクター」は作品の評価を決定づける重要な要素であるだけでなく、独立したキャラクター商品としても消費され、時には作者の手を離れて、受け取った消費者が二次創作することもあります。
企業活動においてもイメージキャラクターというものがあるように、ビジネスの分野でもキャラクターは存在します。
今回から何回かに分けてそもそもキャラクターとはどういうもので、キャラクターを作るとはどういうことなのかを考えてみます。
ハリウッド映画におけるアバター
キャラクターとは何かを考えていく上でまず手掛かりにしてみたいのは「アバター」という概念です。
アバターというと、多くの人はSNSやネットゲーム上で自分の代わりとなるキャラクターを想像するかと思います。
しかし、実はアバターとはハリウッド映画などではキャラクターの類型を説明するのにも用いられます。
この場合、アバターは映画の観客が感情移入する対象となるキャラクターの事を指しますが、それは主人公とイコールではありません。
よく、小説やまんが作品に対して編集者が行うアドバイスの一つに「主人公は読者が感情移入する存在であること」を当然と考えるのは、かなり日本的な考え方とも言えます。
ハリウッド映画やアメリカのTVドラマの場合、シナリオ技法上、主人公に直接感情移入させるとは限りません。
むしろ主人公とは別にその傍らに観客が感情移入しやすいキャラクターを配置することが普通です。
例えば、少し古い例になりますが、「Xファイル」においてUFOを信じる変わり者のFBI捜査官、モルダーに対して視聴者はダイレクトに感情移入するのではなく、常識人である相棒の女性捜査官スカリーの視線を通して主人公モルダーを「観る」のです。
「Xファイル」はUFOに始まって人体発火からUMA(未確認動物)までさまざまな超常現象をテーマにしており、ありとあらゆるベタなオカルト的事件がこれでもかと登場します。
普通なら視聴者も「はあ?なにこれ??」とシラケてしまうような作品ですが、スカリーという主人公の相棒は、視聴者より先にモルダーの行動にきっちりと懐疑の視線を向けます。
その上でスカリーの常識的な判断や思考を通じて、視聴者は「UFO」という映画やTVで使い古されたベタな素材とそれを信じる主人公モルダーを受け入れていくのです。
このように、視聴者や観客の代わりに作品世界の住人となって主人公を理解していく登場人物をハリウッド映画では「バディ」あるいは「アバター」と呼ぶようです。
アバターの語源からひも解く本来の意味は「神の化身」
アバターの語源はインドをはじめとする南アジアの古代語であるサンスクリット語のアヴァターラ(avatara)で、それを英語表記したのがアバター(avatar)です
アヴァターラとはヒンズー教の概念では不死の存在、至高の存在が現世に現れる際にとる化身を意味します。
神様という超越的な存在があの世に居て、この世に現れる時の姿、すなわち化身がアバターであり、それはネットの世界でのこちら側とあちら側に例えられているわけです。
ネット用語としての「アバター」を最初に採用したのは、ジョージルーカス率いるルーカスフィルムが1985年に開始した「ルーカスフィルムズハビタット」というビジュアルチャットサービスです。
日本では1990年から富士通がパソコン通信NIFTY-Serveを開始し、そこでは仮想都市の住人となるサービスでアバターを採用しました。
利用者はアバターと名付けられた動く人形となってさまざまな行動をします。
アバターは歩いてものを拾ったり、捨てたり、装置を操作したり表情を変えながら話をしたりといったように、すべてプレイヤーの意のままに動きます。
このように、ネット用語であろうと映画用語であろうと、操作する側の人間にとってのもう一つの世界を生きるための「化身」がアバターであると言ってもいいでしょう。
ウェブ上のアバターは化身とパーツの組み合わせがセットに
ウェブ上でアバターを作る場合、大抵はあらかじめ用意された体型や髪型と髪の色、目や口、鼻の形、肌の色、服装や靴などをはじめとするアイテムを選んでいくという形を取ります。
ここで注目したい点は、アバターというキャラクターのビジュアルは様々なパーツの組み合わせであるということです。
ゲームソフトのCMで女優が自分の似顔絵をゲーム機で描くシーンがありましたが、この場合も人間の顔を目や口や鼻というあらかじめ用意されたパーツのデザインから選択していって実在の人間を描くということを実践しているわけです。
つまり、ここでは実在の人間の顔をあらかじめ用意されたパーツの順列組み合わせに還元していると言えます。
ウェブ上のアバターという概念には、ヒンズー教的な「化身」とパーツの順列組み合わせという感覚がセットになっていると言えます。
この感覚は、最近のゲームやアニメのキャラクターづくりの一つの手法にも応用されています。
すでにある、いわゆる「萌え系」キャラクターのさまざまな属性のパーツを順列組み合わせすることで、新たなキャラクターを作り出すのがその例です。
次回に続きます。