「推し消費」に見る新しい経済観念~Z世代が「好き」にお金を使う理由~

2025.09.28
「推し消費」に見る新しい経済観念~Z世代が「好き」にお金を使う理由~

「推し消費」に見る新しい経済観念~Z世代が「好き」にお金を使う理由~

消費行動の主役、Z世代の「推し消費」とは?

現代の消費トレンドを語る上で、Z世代(1990年代半ばから2010年代初頭生まれ)の存在は無視できません。

彼らは生まれながらにしてデジタルネイティブであり、情報収集や価値観の共有にSNSをフル活用します。

この世代の消費行動を象徴するのが「推し消費」です。

推し消費とは、単なる商品やサービスの購入に留まらず、アイドル、アニメキャラクター、インフルエンサーなど、自分が「推す」対象への愛や支持を表すための積極的かつ能動的な消費活動を指します。

従来の消費行動が必要性や便利さに基づいてきたのに対し、推し消費は感情的な充足や自己表現に重点を置いています。

Z世代が消費のボリュームゾーンとなる現代においては、企業がこの新しい消費行動の本質を理解することは、今後の販売戦略において不可欠と言えるでしょう。

経済学で読み解く「推し消費」の構造

Z世代の推し消費は、一見すると非合理的に見えるかもしれません。

しかし、その裏には経済理論や行動経済学で説明できる明確な理由があります。

経済学というと少々堅苦しく感じる方もいらっしゃると思いますので、できるだけわかりやすく解説していきます。

限定品・特典に感じる価値

推し活におけるグッズやイベントチケットの多くは、限定生産や期間限定といった「希少性」を伴います。

Z世代は、この限定品を逃すことへの恐れ(FOMO: Fear of Missing Out)を感じやすく、また、それを手に入れることで、推しへの忠誠心(ロイヤリティ)の証として、他者と差別化を図ろうとします。

    企業側は、この「限定プレミアム」を創出することで、商品単価ではなく、体験価値を高め、購買意欲を最大限に引き出していると言えます。

    「モノ」から「コト」そして「イミ」へ

    従来の消費は「モノ」(製品の所有)を目的としていましたが、Z世代の消費は「コト」(体験)へと移行し、さらに「イミ」(意味や価値観)へと進化しています。

    グッズの購入はモノを目的とする消費行動ですし、ライブやイベントへの参加はコトの消費であり、イミの消費は 「推しを支える」「コミュニティの一員である」という精神的な充足感や、推しが関わる社会貢献活動を応援することと言えるでしょう。

      推し消費の本質は、この「イミ消費」にあります。

      彼らは、推しへの投資を通じて自己のアイデンティティを確立し、同じ価値観を持つコミュニティへの帰属意識を満たしているのです。

      この「意味の共有」こそが、消費を後押しする最大の動機となっています。

      心理学が解き明かす「好き」のメカニズム

      経済的な動機だけでなく、推し消費にはZ世代特有の心理的メカニズムが深く関わっています。

      共感と自己投影による「応援消費」

      Z世代は、推しの成長ストーリーや、その裏にある努力に強い共感を覚えます。

      これは、推しを理想の自己像と捉えたり、分身のように感じたりする心理的メカニズムです。

      推しにお金を使うことは、単なる消費ではなく、「投資」と認識されます。

        その投資(消費)によって推しが活躍したり、目標を達成したりする姿を見ることは、自己肯定感や間接的な成功体験となり、大きな喜びにつながるのです。

        この「応援消費」は、リターンを求めない親愛の情がベースにあり、ブランドへの強固な愛着を生み出します。

        コミュニティ形成と「ソーシャル・キャピタル」

        SNSの発展により、推し活は個人で楽しむものからコミュニティ活動へとして発展しました。

        グッズを所有することやイベントに参加することは、同じ推しを持つ仲間と喜びや感動を共有するための「共通言語」となります。

        心理学的には、人間関係や社会的なつながりから得られる恩恵を指すソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を構築する行為と言えます。

        グッズを所有することやイベントに参加することは、同じ推しを持つ仲間と喜びや感動を共有するための「共通言語」となります。心理学的には、人間関係や社会的なつながりから得られる恩恵を指すソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を構築する行為と言えます。

          限定グッズをSNSに投稿したり、ライブの感動を語り合ったりすることで、Z世代はコミュニティ内で承認され、自分の存在価値を確認しているのです。

          商品そのものよりも、ファン同士がつながる「場」や「きっかけ」を提供することが重要になります。

          企業が学ぶべき消費行動の変化と戦略

          Z世代の推し消費の分析から、企業のマーケティング戦略成功のためのヒントが得られます。

          「機能的価値」よりも「情緒的価値」を訴求する

          商品やサービスの性能(機能的価値)だけでは、もはや競争優位性は築けません。

          企業は、自社ブランドが持つストーリー、世界観、哲学といった情緒的価値を強化し、それを深く愛してくれるファンとの関係を築く必要があります。

          「参加感」と「共創」の場を提供する

          ファンは、ただ受け取るだけでなく、推しやブランドと一緒に何かを作り上げたいという強い願望を持っています。

            限定コミュニティで企画の裏側を公開するなどして、「共創」の機会を提供し、「自分たちの手で推しやブランドを育てている」という参加感を醸成することが、熱量の高い消費を生み出す鍵となります。

            透明性と倫理観を重視する

            デジタルネイティブであるZ世代は、企業の不透明な姿勢や倫理的な問題に対して非常に敏感です。

            推しにお金を投資する行為が、クリーンで信頼できる企業活動に繋がっているかを確認します。

              企業は、環境への配慮や社会貢献といった取り組み(パーパス)を明確にし、透明性の高いコミュニケーションを行うことで、ファンの信頼と共感を得る必要があります。

              まとめ

              Z世代の「推し消費」は、単なるブームではなく、消費者の価値観が「所有」から「意味」へと転換した時代の象徴です。

              彼らの「好き」という感情の裏にある経済的・心理的メカニズムを深く理解し、モノづくりやサービス提供において「愛される理由」をデザインすることこそが、これからのビジネスの成功を左右するでしょう。

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