推し活市場拡大の背景と推し活文化のボーダレス化
複数ジャンルの推し活で新しい推し活文化が生まれる
推し活をする人の基本的な感情である「好き」と「応援したい」と思う対象は、一般的に考えられるアイドルやアニメのキャラクターにとどまりません。
J-POPやK-POPのグループ、ロックバンド、俳優やお笑い芸人、Youtuber、スポーツ選手やプロゲーマー、歴史上の人物をはじめ、お城や寺社仏閣、橋やダム、工場、鉄道や航空機、船舶、バスなどその対象はさまざまです。
こうした推す対象が多種多様なのはもちろんですが、同時に複数の推しを持つ人も珍しいことではありません。
「推しの推し活」が複数推し拡大の背景に
同じグループ内の複数のメンバーを推すのは珍しいことではありませんし、推しているアイドルが推しているアニメのキャラクターを自分も推すといったケースや、芸人さんと鉄道、航空機といったように、推している人の推し活に影響されて、自分も複数ジャンルの推し活をはじめるといのも普通になってきています。
このようなジャンルの垣根を超えたいわゆる「複数推し」は、それぞれのジャンルの推し活特有の文化が別のジャンルに取り込まれて、新しい推し活文化を生み出すことも見られます。
例えば、アニメキャラクターの推し活において、従来から見られた文化でもある推しのぬいぐるみを持って写真を撮るという行為が、ぬいぐるみからアクリルスタンドやアクリルキーホルダーなど形は変わりましたが、アイドルや芸人、俳優、アスリートの推し活で同様にみられるようになっています。
また、著名なYouTuberが写真集や書籍、カレンダーを発売するなど、これまでの芸能人やタレントと同様の活動をするケースも見受けられます。
チャンネル登録者数200万人超のYouTubeチャンネル「もちまる日記」は、猫のスコティッシュフィールド「もちまるくん」の日常を配信していますが、飼い主は別サイトで「もちまる商店」を運営しています。
推しから「もち様」と呼ばれるもちまるくんのアクリルキーホルダーやアクリルマグネット、フォトカードやステッカーなどを販売しており、一部数量限定商品はすでに売り切れで中古市場でも高値で取引されています。
「もちまる日記」は有名芸能人が推し活していることで、「推しの推し活」の影響で関連グッズの販売拡大を後押ししていると言っていいでしょう。
こうしたジャンルを超えた「複数推し」と、各ジャンル特有の推し文化の融合、いわば「推し文化のボーダレス化」が進むことで、推し活の市場は需要が無限に広がる可能性を秘めていると言えるでしょう。
アニメキャラクターの推し活文化から広まったアクスタ
推し文化のボーダレス化の一例として、アクスタ(アクリルスタンド)について考えてみます。
ここ数年来「推し活」グッズの定番アイテムとなっているのがアクスタ(アクリルスタンド)やアクキー(アクリルキーホルダー)です。
推しであるアニメキャラクターやアイドル、アーティスト、アスリートをアクリル素材に転写したものですが、比較的小型のものが多く、手軽に持ち運べることから、当初はアニメ好きな人たちの中で人気アイテムとなりました。
「アクスタ」や「アクキー」はバッグに入れて、あるいはバッグにつけて、推しと自分が一緒に行動し、さまざまな場所に連れていくことで、推しと共通の思い出を作るといった疑似体験を楽しむアイテムです。
そして、推しと一緒に訪れた思い出の記録として、周囲の風景や美しい景色をバックにアクスタ、アクキーとともにスマホで撮影したり、いわゆる聖地巡礼の地で撮影した画像をSNSにアップしたりします。
フィギュアにしてもアクスタ、アクキーも、企画・制作・販売者側としては、部屋に飾って鑑賞するものと考えていたものが、推し活の隆盛とともに今では家の外へ連れ出して、カフェや旅先、遠征先のイベント会場で撮影するといった利用法が多くなっています。
コロナ禍が推し活ブームを後押し
推し活がある種のブームとなったのは、コロナ禍で自分が「推し」と一緒の空間を共有することが難しくなったことが挙げられます。
ライブやイベント開催がなくなり、疑似的にでも「推し」と同じ時間と空間を共有したいと強く考えるようになったのです。
こうした状況で、アクスタやアクキーなどアクリルグッズとの撮影を気兼ねなく行える場所として人気なのが「推し活カフェ」(推しカフェ)です。
推し活カフェには一人で利用するだけでなく、SNS上でつながった同じ推しを持つ仲間とのオフ会や、推しの誕生日を祝うイベントを開催するといったケースもあります。
2014年に、女性アイドルの「ハロー!プロジェクト」がフィギュアスタンドキーホルダーとして初めて実写の人物をアクリル板に印刷したグッズを公式販売しました。
これを契機に様々なアイドルが「アクリルスタンド」や「アクリルキーホルダー」などを公式のグッズとして販売開始し、今ではアイドルや俳優、お笑い芸人などの芸能人だけでなく、野球選手やサッカー選手、オリンピック選手などのアスリートのアクリルグッズも販売されています。
現在では、イベント会場やライブ会場、野球やサッカースタジアムなどに足を運ぶことの目的として、アクスタをはじめとするグッズを入手することも大きな目的となっており、販売開始から数分で売り切れとなることも多いそうです。
一部のアクリルグッズでは限定性と入手困難さもあって、中古市場で高値で取引される事例も見受けられます。
このように、複数ジャンルの推し活をする人が増えることにより、各ジャンル特有の推し活文化が他のジャンルにも広がることで、新たな推し活市場が拡大するといった状況は、今後も続くものと考えられます。