作品の「感動」へとつながる「謎解き」とは

2024.06.29
作品の「感動」へとつながる「謎解き」とは

作品の「感動」へとつながる「謎解き」とは

物語の本質は喪失と再獲得であると言われることがあります。

例えば、国文学者の折口信夫が提唱した「貴種流離譚」(きしゅりゅうりたん)という物語のスタイルです。

これは、若い主人公が苦労し試練を克服した結果、大切なものを取り戻し、成長して尊い存在となるといった物語の類型です。

世界中の英雄伝説は細部に多少の違いはあれ、たいていこのようなストーリー展開を取っています。

物語の本質が「喪失と再獲得」にあるとすれば、ここに「感動」を生み出す何かがあるのかもしれません。

感情を刺激することと感動の違い

大切なものをなくす。

それは「愛するものとの別れ」かもしれませんし、「社会的地位の失墜」かもしれません。

それはとても惜しく、つらく悲しいですし、戻れるものなら元に戻ってほしいと思う。

時を戻してほしいと悔やむ。

そして、それが主人公の苦難と成長の末に元に戻る。

あるいは、失ったものを取り戻すというだけでなく、別の何かによって欠落が埋められ、「過去の自分とは別の自分」「無くしたものを必要としなくなった自分」を発見する。

それは物や人、地位や名誉かもしれませんし、誰かの心からの言葉かもしれません。

そのたったひとつの言葉で失った大きな物に代わるかけがえのないものを得ることもあります。

人が感動するのは、誰かが死んで悲しいからではないですし、誰かと別れて苦しいからでもなく、誰かの想いが通じなくて同情するからでもないのです。

登場人物の境遇に泣かされることはあっても、それは感動ではなく感情を刺激されているにすぎません。

ポイントは湧き出た感情をどう克服して、新たな感情を獲得し、感動を得たのかということです。

喪失の克服から感動へ

何らかの体験を経て、ある感情から別の感情へと移り変わり、あるいはそれらが複雑に絡み合って心が動く時、そこに感動が生まれます。

喪失の感情だけを描いていても感動は生まれません。

喪失から立ち上がり、克服していくその局面にこそ、喪失のシーンで流した涙が感動へと昇華されるのです。

物語における「感動」とはこういうことなのです。

「幸福の黄色いハンカチ」に見る喪失から感動への流れ

わかりやすい例を挙げましょう。

日本を代表する映画俳優、高倉健さん主演の「幸福の黄色いハンカチ」という映画があります。

高倉健さんが演じる主人公、島勇作は、刑務所から出所してきたばかりの元炭鉱夫です。

その主人公が網走刑務所を出て、夕張に住む元奥さんのもとへと向かうロードムービーです。

網走から夕張の元奥さんのもとへと向かうという、たったそれだけの物語ですが、もちろんこれだけでは映画として成り立ちません。

ただでさえ寡黙な「健さん」ですから、バスや列車を乗り継ぎ網走から夕張まで移動するだけでは面白くもなんともないわけです。

もちろん、心の中ではさまざまな葛藤や想いがあるにしても、それは観客には見えてきません。

小説なら、心の声を文章にしてしまえばいいのですが、映像作品や漫画ではナレーションを多用しなければならなくなります。

セリフが少なくても、表情や佇まいで心の声を表現できる稀有な俳優と言われる高倉健さんですが、自分からは積極的に語りたがらない健さんの心の声や、過去の秘密を聞き出す役目のキャラクターが必要です。

そこで、武田鉄矢さんが演じるおしゃべりでお調子者の青年、花田欽也と彼がナンパした桃井かおりさん演じる朱美が引き回し役として登場します。

網走の海岸で出会った健さんと武田鉄矢さん、桃井かおりさんは武田鉄矢さんの車で旅に出ます。

最初は自分の事を話したがらない主人公ですが、青年たちと旅を共にしていろいろな体験をすることで、次第に心を開いていき、自分の過去を語り始めます。

主人公は酒に酔って盛り場の片隅で喧嘩をして、相手を死なせてしまったために網走刑務所に収監されていました。

出所してきた主人公、島勇作は夕張に住んでいるかつての妻に一枚のはがきを書きます。

網走刑務所を出所したが、いまでも自分のことを思ってくれているのなら、家に黄色いハンカチを掲げてほしいと。

この奥さんの家に黄色いハンカチがかかっているかどうかという「謎」を見に行くというのがこの物語のすべてです。

途中で主人公は「やっぱりよそう」とか「どうせダメにきまっている」と弱気になる場面もありますが、青年たちに「何言ってるんだ!」「行ってみなきゃわからないでしょ!」などと励まされます。

主人公のキャラクターを創り、主人公が向かっていくもう一つのキャラクターを創り、それを追いかける。

引き回し役を同行させて謎を追いかけ。物語が進み謎が明かされていくにつれて、主人公の言動も変化していき、観客が主人公に抱く認識も変わっていく。

その都度主人公のキャラクターはいわばとんぼ返りしてキャラクターが新しく変わっていきます。

そしてラストシーンを迎えます。

夕張の妻の家にたどり着く場面です。

果たして黄色いハンカチは掲げられているのか。

妻は主人公を受け入れてくれるのか。

この物語の最大の謎です。

主人公は逃げ出したい気持ちと戦って向き合います。

そして見上げる主人公の目には多数の黄色いハンカチが風になびいていました

当時映画館では観客が「おおおっ!」と歓喜の声をあげ、拍手が巻き起こったそうです。

映画館で観客が歓声の声をあげ、拍手をするというのはなかなかないことでしょう。

それだけ観客が主人公に感情移入して、

心が動いたのでしょう。

これこそが感動です。

雲一つない青空にはためく多数の黄色いハンカチの色彩のインパクト。

山田洋二監督は、この一瞬のインパクトのために、このシーンをより際立たせるために、それまでのシーンで徹底的に「黄色」を排除したそうです。

これは映画だけでなく、漫画でも重要な「画で見せる」ということです。

この黄色いハンカチがはためくシーンで観客は主人公が妻に許されたことを知ります。

かつて喪失した大切なもの、そしてそれに代わるもっと大きなものを取り戻したと一瞬で体感するのです。

「感動」は謎が解けた瞬間に生まれる

喪失したものに代わるもっと大きなものを獲得する。

喪失を経て獲得へと向かうこの瞬間に見るものの感情も大きく動きます。

不安が安堵へ

あきらめが喜びに

悲しみが希望に

心が動き、感情が変化して感動が生まれます。

ポイントは、この「感動」は「黄色いハンカチが出ているかどうか」という「謎が解けた瞬間」に生まれているということです。

謎が解けて、その結果によって見えている世界が一転して、感情が動き感動が生まれるということです。

物語とキャラクターを創造する際には、「謎」をどう設定し、見えている世界が一転する、いわばとんぼ返りをどうするのかを考えてみることが最大のポイントと言えます。

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